「不戦勝は何チーム」
名古屋市立矢田中学校
永井 聡
1.指導のねらいと留意点(3年 課題学習)
 (1) 本時の問題
 毎年8月に,甲子園で全国高等学校野球選手権が開かれます。
 この試合に先立ち,抽選によって組み合わせを決めますが,第2回戦以降には,不戦勝のチームがないようにつくられています。
 では,第1回戦で不戦勝となるチームは何チームでしょうか。49チームの場合について考えてみましょう。

 (2)

 指導のねらい
身近なところから
数学の問題へ
   高校野球と聞けば,知らないと答える生徒はいない。また,トーナメント戦によって試合が行われていることも知っている。このような身の回りにある事柄を,ある方向から眺めてみると,数学を活用することができる場面が見えてくる。課題学習では,このような問題を取り上げていきたいと思っている。
だれでも自分の考
えを持てる問題を
   「数えればできそう」,「実際にトーナメント表をかけばいいのでは」など,試行錯誤をしても答えが出せそうな問題を提示したい。生徒の実態によっては,全員が答えを求めることが難しいこともある。しかし,自分の考えを持たせることで,級友の発表や教師の助言で,少なくとも,次によく似た問題が出てきたときはこうすれば解けるという思いを持たせたい。
学んだことを
生かせる問題を
   できれば,身につけた数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則を生かせる問題を提示したい。ただ,生徒によって,今までに身につけているものに違いがあるため,多様なアプローチが可能な問題になるように,問題の検討を行っている。
 このような問題を開発・工夫することによって,問題解決のための多様なアプローチや発想のすばらしさに触れ,自ずと学習するよさや楽しさを感じ,高めていこうとする気持ちを持つことにつながる。そして,生涯にわたって,数学を進んで活用していくことができる能力や態度が身についていくことを願っている。

 (3)

 本時の流れと留意点
時間生徒の主な活動教師の活動及び留意点
10分 1 問題把握をする。
 ・問題の意味がわからないところを質問する。
プリントを配付する。
不戦勝やトーナメントの意味がわからない場合は説明をする。
25分 2 個人追究をする。  
 ・他の解決方法を考えたり,級友にわかりやすく説明できるようにしたりする。
考えが持てない生徒には,教師の助言や生徒の中間発表によって,解決の糸口をつかめるようにする。
15分 3 集団追究をする。
 ・自分の考えを発表する。
 ・級友の考えに修正を加えたり,付け加えをしたりする。
 ・授業でわかったことや感想などを書く。

考えが生み出されてきた過程に着目させる。
正答が導かれていない考えも出させ級友の発言によって,「そのように考えればよかったんだ」という思いを持たせる。

2.授業の実際と生徒の反応
 (1) 問題把握する場面において
追究意欲を持つ
取り組みへ
   「夏の甲子園で行われるスポーツは何」とたずねると,「高校野球」とすかさず返ってきた。次に「では,参加チームは何チームか知っている」とたずねたところ,無反応だったので,東京,大阪は2校,後は1校で,全部で49校になることを確認した。
 ここで,右のようなプリントを配付し,問題の説明をした。
 プリントについては,自由な記述ができるように,問題をのせるだけで,後の部分は白紙のものをいつも用意している。
 「どのような対戦方式かわかりますか」とたずねると,「勝ち上がり」,「負けたら終わり」と声があがった。「その方式を何というか」には,「トーナメント戦」と出てきた。
 そこで,参加チームが5チームを例に,不戦勝のチーム数がいくつになるかを確認しようとしたところ,「1チーム」,「3チーム」と意見が分かれた。

 生徒は,(ア)の図のように見て,2 の試合が2回戦の試合と思うことができずに,1チームと答えてしまう場合がある。
(イ)の図をもとに確認をした。
以上のようなことを確認して個人追究に移らせた。
 (2) 個人追究する場面において
既習事項の利用で
自分の考えを持つ
   以下のiからivのような考えが主なものである。
 日頃から単に答えを求めるだけではなく,使った数の意味を考えさせてきた成果を表す姿が見られた。ただ,表をかいて求める姿がなかったことと時間がかかったことが課題として残った。
i 計算をして求める。
  ii トーナメント表をかいて求める。
iii 方程式で求める。
iv トーナメント表をかいて求める。
   ivにおいては,初めは,「2回戦以降に不戦勝がない」の意味をしっかりととらえていなかったために,1回戦からかいていた。教師側からの助言により,決勝戦からかいて答えにたどり着くことができた。
 (3) 集団追究する場面において
数学的な見方や
考え方を養う
   まず最初に,不戦勝が15チームになることを確かめた。
 これは,みんなの答えが同じになったことが確認できると,求めた方法に不安を持っている生徒が自信を持って発言するようになるからである。
 iからivの考えについて,どのように進めて答えにたどり着いたのかを確認をした。
また,いつでも使える考えなのかを確認した。
 さらに,それぞれの考えの似ている点を見つけさせた。これは,

 一見違うが,同じことを考えていることを確認することができた。時間がなくなり,授業の終わりは急いだ形になったが,表についても考えさせた。

 表を少しずつかきながら,ところどころの不戦勝のチーム数を考えさせたり,気づいたことを発表させたりして授業を終えた。日頃の授業で出会う変化の様子とは違うため戸惑う生徒も多かったが,おもしろさを感じている生徒もいた。


3.指導の成果と今後の課題
 今回の実践を通して,次のことが見えてきた。
 ・複数の考えを持つ生徒がどれを答えるかははっきりしないため,授業を構成しにくい場面があった。小黒板を利用し,発表の順を意図的にできるようにする必要を感じた。
 ・普段の授業においても,課題学習的な内容を扱うことが必要であると感じた。今後も,数学を進んで活用していくことができる能力と態度を身につけさせるため,教材の開発・工夫等の検討を続けるとともに,授業を支える教師の力を高めていきたい。

 参考文献
筑波大学附属中学校数学教育研究会 数学科課題学習の教材集 明治図書
玉置 崇他 数学の授業を感動の連続に 明治図書

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