東海大学助教授
菊池 文誠
キュリー研究所
Institut Curie
パリ技術博物館
Conservatoire des Arts et Metiers Musee National des Techniques

フランス(1)

キュリー研究所
(Institut Curie)

所在地11 Rue Pierre et Marie Curie,Paris5e
電話番号43291242
交  通地下鉄の Port-Royal,Odeon,Luxembourg,Maubert Mutualite の各駅が近い。
文教地区カルチェ・ラタンのほぼ中央部にある。
目標としては,まず,パンテオンへ行き,南側 高等師範学校(Ecole Normale Superieure)へ通じるユルム通り(Rue d'Ulm)を少し進めば,ピエール・マリー・キュリー通り(Rue Pierre et Marie Curie)に出る。
開館時間非公開なので,あらかじめ問い合わせが必要
写真撮影可能
 1903年のキュリー夫妻のノーベル賞受賞後,ラジウム研究所としてソルボンヌ大学(パリ大学)の一角に建てられた。物理化学部門と生物部門からなり,前者をキュリー実験所といい,マリー・キュリーが初代所長を勤め,その後,娘のイレーヌ・キュリー,その夫のジョリオ・キュリーと引き継がれた。後者はパスツール実験所という。ラジウム研究所は放射能研究の中心としてあまりにも有名である。その後,現在のキュリー研究所と名前が変わり,付近には放射線ガン医学,分子生物を中心としたトップレベルの研究施設や附属病院が立ち並んでいる。少し離れた市立物理化学工業学校の中庭の駐車場にラジウム抽出の場所があり,小さな記念碑がある。
 このラジウム研究所の建物が博物館になっている。静かなたたずまいの中庭に入るとピエール,マリー夫妻の胸像がある。
 展示室には,当時の実験装置の数々がガラス陳列ケースに収められている。ラジウム検出用の有名なランプスケール表示の電位計のほかは霧箱や電気計など人工放射能の発見でノーベル賞を受けたジョリオ,イレーヌ・キュリー夫妻のものが大部分であり,エレクトロニクスの粋を集めた現在の測定器から見ればよくもこのような単純な装置で仕事ができたものだと思う。
 また,多数の研究論文や手紙類も紹介されている。展示品の解説はすべてフランス語である。アメリカから贈られたラジウムの入った容器もある。


写真1 旧ラジウム研究所

写真2 キュリー夫妻の使用した電位計

写真3 霧箱とコイル

 隣にはマリー・キュリーの研究室がそのままの姿で保存されている。その部屋は主がいつ戻ってきてもすぐに机に向かって仕事ができる状態になっている。机の上には来訪者のための大きなサイン帳がある。また,引き出しにはキュリー夫人の使用していた黒い実験着がある。戸棚には放射性物質の入った瓶があり,ノーベル賞の賞状も無造作に家具の上に置かれている。
 さらに,その隣の実験室は,放射能汚染のためこれまで閉鎖されていたが最近汚染除去がなされ,見ることができる。どこにでもある化学実験台と当時のままの実験器具があり,ノートには夫人の指紋も残っていて,今でも放射能が検出されるという。


写真4 キュリー夫人の部屋

写真5 ラジウム抽出の跡地

小さいながらも科学史上重要なこの博物館が非公開なのは惜しい気がするが,一方,観光気分で大勢が一度に押しかけるような場所でもない。キュリー一家の業績に真に触れたい人だけが静かに訪れるところであろう。フランスが原子力,放射線医学で世界の先端を進んでいる今日,ここはまさにその原点であり,貴重な史跡である。
現在のパスツール研究所は大きく発展してモンパルナス地区(地下鉄 Pasteurの近く)に移転している。付近一帯に研究所,病院などの施設が展開し,旺盛な研究活動が進められている。エイズ・ウィルスもここで発見された。ここのパスツールの旧居が博物館になっている。
14:00〜17:30の開館で,土曜,日曜,祭日,および8月は休みである。地下は彼の墓所になっている。

パリ技術博物館
(Conservatoire des Arts et Metiers Musee National des Techniques)
所在地:292 Rue St.Martin
電話番号:40272375
交  通:地下鉄 Reaumur-Sebastopol 下車徒歩5分
開館時間:火〜土の13:00〜17:30,日曜の10:00〜17:15
写真撮影:不可
 この博物館はサンマルタンデシャン教会の建物を利用した国立大学の附属博物館である。日本ではあまり知られていないが,フランスの科学技術史の全コレクションがほぼ見られ,しかも展示品の種類,質でも優れた重要な博物館である。

写真6 科学技術博物館入口
 展示方法は陳列ケース中心で,専門性の高いもので,いわゆる教育的配慮はない。
 1794年に発足して200年の歴史を有し,イギリスの大英博物館に次いで古い。フランス革命で処刑されたラボアジェのコレクションを中心に展示されている。
 主な展示品としては,1階の大展示室の床に多数の2輪車や各種の蒸気車が,天井には古い時代のフランス系の飛行機が3機吊るされており,アメリカのライト以後のフランスの飛行機の発達を物語っている。また,フーコーの振り子の実物もここにある。大小2つあり,小さい方の28kgの鉄球がパンテオンでの実演に使用された。また,1768年製作の世界初めての自動車キュニヨーの蒸気自動車と,蒸気駆動のバス,3輪車,消防車等がある。続いて鉄道の模型や農機具などのコーナーがあり,中央部に出るとラボアジェの記念室がある。ここには彼の使用した数々の実験器具や遺品のほか,最大の目玉として化学反応の前後では質量は不変であることを証明した物理天秤が2台ある。高さ2.2m,腕の長さ1.1mの全しんちゅう製の巨大で精巧な装置である。
 正面の壁側には,太陽光線集光用の巨大レンズがあるが,これも質量保存則を検証するための水銀化合物の点火用のものである。次の計測器具室にはパスカルの計算機が4台展示されている。プレートには1664年製と刻まれている。
 ラボアジェの部屋のそばの階段から2階に登ると,ディドロやダランベールの「百科全書」の中の家内工業や工芸物の挿し絵を精密な模型で再現したものが展示されている。
 他にも多くの部屋があり,光学機器,楽器,ガラス製品,機械装置,映写機などのおびただしい展示がある。特に無線のコーナーではブランリの発明したコヒーラ(検波器)と,それに続いて無線技術を確立したマルコーニの無線機がある。また,17,18世紀の物理学史の部屋にはフレネル,パスカル,マリュス,ビオ・サバール,アラゴー,シャルル,クーロンなどのオリジナル実験器具が多くある。
 この館の見所は何といっても規模が壮大なことで,フランス科学技術史の史料の宝庫であり,徹底的に調査すれば興味の尽きないところである。この館はミュンヘンのドイツ博物館,ロンドンの科学博物館に匹敵する優れた史料を多く持ちながら,科学史の専門家以外,日本ではほとんど知られていないのが残念である。紹介のパンフレットも少なく,写真撮影も禁止されていて,一般に対する教育や学習面の配慮は乏しい。


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