科学博物館
The Science Museum
No.4
東海大学助教授 菊池 文誠

イギリス(1)

科学博物館(ロンドン)
(The Science Museum)

所在地:EXHIBITION ROAD,LONDON SW72DD
電話番号:071-9388080
アドレスhttp://www.nms.ac.uk/
交通:地下鉄の South Kensington 下車が便利である。
 バスも多くの路線が近くを通っている。
 付近には自然史博物館や美術工芸品の展示で知られる,
 ビクトリア・アルバート博物館があり,博物館の密集地区である。
開館時間:平日10:00〜18:00,
 日曜11:00〜18:00
休館日:12月24,25,26日
入場料:5.5
写真撮影:可能
 この科学博物館は世界でも最大の規模を誇るもので,1909年に創設され,基礎科学,技術,交通機関等の展示が主である。まさに科学博物館の草分けといえる。最近,展示の大幅な改装がなされ,従来の「展示物を見せる」方式から近代的な「観客参加型」への移行が見られる。
 このような傾向は,ヨーロッパ各地の古い科学博物館の改装にも少なからず影響を与えているようである。医学関係の展示も医学史博物館として拡大された。内部は7階建てで40以上のギャラリーに分かれている。子ども向けに宇宙船模型などの遊戯装置を並べたラウンチ・バッドと呼ばれる体験コーナーもある。大きな特色として,近くのImperial Collegeにある附属の図書館は膨大な文献・資料をかかえ,専門的な調査・研究が可能であり,依頼すれば閲覧や複写ができる。

  ロンドン博物館入口
 主な展示品としては,産業革命の生まれた国だけに,まず目につくのは,有名なワットやニューコメンの蒸気機関,スティーブンソンの蒸気機関車ロケット号,製鉄,紡績関係などの大きな装置が当時をしのばせてくれる。また,鉄道,自動車(初期のベンツやロールスロイスなど),飛行機,海運などの交通関係にもかなりのスペースが使われている。
 物理関係では,ファラデー,J.J.トムソン以来の実験物理の歴史に残る数々のオリジナルの装置がみられる。
 古いものではジュールの熱量計や,ニュートンおよびハーシェルの望遠鏡,フックの顕微鏡といった光学機器などがあり,エジソンの電球に先行するスワンやフレミングの電球は貴重なものである。
 これらは電磁気学の初期の実験器具とともに見学者を楽しませてくれる。それらに関与した科学者についての解説も充実している。ファラデーが電磁誘導の発見に用いたコイルもあるが,これはレプリカでオリジナルは王立研究所にあり,次回に紹介する。

ジュールの熱量計

フレミングの二極電球
 ロンドン科学博物館では多くの科学史上有名な実験装置に接することができ,大きな興奮を覚える場所である。特に目を見張るのは原子物理・核物理のコーナーである。
 実験の分野で現代物理の扉を開いたキャベンディシュ研究所の輝かしい業績がここにある。J.J.トムソンの陰極線の実験装置,アストンの質量分析装置,ガイガー計数管,ウィルソン霧箱,コッククロフトの加速器などの実物が展示されている。これらを中心にブラッグ父子やラザフォードとそのグループの研究が紹介されている。


 アストンの質量分析器

 ウィルソンの霧箱

 コッククロフト・
ウォルトンの加速器

 周辺にはイギリス以外の研究者のレントゲン,キュリー夫妻,アインシュタイン,ボーアなどの紹介やサイクロトロン,ベータトロンなど加速器の実物もある。写真やパネルも用いての,電子の発見から最近の原子力および高エネルギー物理や素粒子物理にいたるストーリーの展開は,どんな教科書も及ばない。

     宇宙船模型
 イギリスは産業革命の始まった国でもあり,その関連の展示には圧倒される。近代技術史の宝庫ともいえる。新しいものとしてはフライト・ラボという航空力学体験実験室がある。
 その他の展示では,化学,コンピュータ,宇宙科学などの新しい部門もあり,また,食品研究など社会生活に関連したことも目立つ。生物,地質を除くすべての科学,技術,産業の分野に及んでいる。歴史的なものと現在の姿との調和もよくとれている。全般的にいえることは,徹底した実物展示主義であるということである。また,これは他では真似のできない点であろう。本物に接する喜びがここにある。
 売店も充実していて,大人向けから子ども向けまで数多くの科学図書,標本,教材などが広いスペースで販売されている。
 この科学博物館に隣接して生物および,古生物の展示を主とした自然史博物館(特に大型ほ乳類の剥製や始祖鳥の化石は見もの),地球の歴史の解説や岩石・鉱物のコレクションの展示のある地質学博物館がある。時間があればこちらもぜひ訪れたい。
 また,ヴィクトリア・アルバート博物館は美術工芸品の宝庫で,旧植民地関係の展示も多く,大英博物館とともに,かつての大英帝国の栄華を示す大規模なものである。開館時間は科学博物館に同じで入場料はいずれも5.5である。

 なお,前々号(Vol.13)で「ニュートンが生まれたのはガリレオの死の翌年」と書いたのは誤りで,正しくは「同年」でした。訂正しておきます。


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