レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館
Museo Nazionale della Scienza e della Tecnical Leonardo da Vinci
No.1
東海大学助教授 菊池 文誠


連載を始めるにあたって

 筆者は所属する物理教育研究会(中学・高校・大学教員で組織,会員数約 450名,事務局:上智大学理工学部物理学科,笠耐気付)のメンバー15名とともに,何回かの現地調査を経て,昨年,「近代科学の源流を探る−ヨーロッパの科学館と史跡ガイドブック−」を東海大学出版会から出版した。
 多くの人が海外へ出かける機会が増えたにもかかわらず,これまで理科系を対象とした類書はほとんどなかった。したがって,海外の優れた施設を訪れる人も少なく,中にはその存在すら知られていないことが多かった。そこで,それらの施設への交通手段,地図,みどころなどについて解説したところ,幸い好評を得ている。
 このほど,本誌編集室より読者のために海外の科学館についての連載を依頼されたので,その後の新しい情報および,原著にないアメリカの施設も追加して概要を紹介することとする。
 ぜひ,一人でも多くの先生方がヨーロッパやアメリカの科学館を訪問されて,歴史に残るオリジナルの実験装置や優れた展示を見学され,自らの研修とされるだけでなく,その感動を教育の場で活かしていただければ,筆者としてこれに勝る喜びはない。


イタリア(1)

レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館(ミラノ)

所在地:Via San Vittore 21 Mirano.
電話番号:02-48010040
交通:地下鉄2号線Sant'Ambrogio駅下車,徒歩3分
開館時間:9:30〜16:50
休館日:月曜(祭日を除く),1月1日,5月1日,8月15日,12月25日
入場料:8000リラ
写真撮影:可能
博物館の入口
 近代科学の成立はルネッサンス,宗教改革と密接な関連がある。その先頭を切ったのはイタリアである。
 イタリア第2の都市ミラノにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館はイタリアでは最大規模の科学館である。ここは,多方面にわたり天才ぶりを発揮したレオナルドを記念したものであり,1953年,彼の生誕500 周年記念として彼のゆかりの当地に創立された。
博物館の中庭
 ダ・ヴィンチは彼の姓と思われがちであるが,それは出身地を表したもので,ヴィンチ村のレオナルドという意味である。
 建物はもとは修道院であったが,その後病院などを経て現在に至っている。また,この館は交通博物館的役割も兼ねていて,別棟に多数の鉄道の車両,自動車,船舶,航空機関係の大型展示にかなりのスペースを割いている。世界最初のジェット機もある。軍用機,戦車,銃砲類,魚雷など武器の展示も多数ある。
マルコーニの装置(一部)
 イタリアは古くはガリレオ,アボガドロ,トリチェリー,ガルバーニ,ボルタなどを生み,近年では無線通信のマルコーニ,原子核物理のフェルミ,宇宙線のロッシなどを輩出している。この施設はイタリア科学の伝統を後世に残す意味があることがその展示からうかがえる。
 レオナルドは科学者といえるかどうかは別として,大芸術家であり,同時に当時の天才的技術者であった。
レオナルドの飛行装置
 2階の長い廊下にレオナルドのギャラリーがあり,彼の数々のアイディアが模型で復元されていて面白い。
 特に,力学の考えを生かした空を飛ぶ装置など,いろいろな交通手段や機械技術,軍事技術ともいえる築城や土木関係,さらに運河構築計画など,学問が未分化の時代のものだけに興味深い。また,多くの設計図などの図面もあり,彼の多才ぶりがうかがえる。まさに近代技術のルーツであり,数百年,時代を先取りした巨人であった。
 次に目立つのは,イタリアの生んだノーベル賞受賞者であるマルコーニの装置とその後の通信技術の発展の展示にかなり力を入れていることである。大きなコヒーラ検波器もある。コヒーラ検波器はフランスのブランリが発明したもので,鉱石検波器以前のものである。
通信用火花発生機
電波発生装置(左)と受信装置(右)
 ガリレオ関係のものもいろいろあるが,ここはレプリカ(複製品)が主で,オリジナルはフィレンツェの科学史博物館にある。これらについては次回に紹介する。  楽器のコーナーには,弦楽器製作工房の復元やヴァイオリン製造過程の展示がある。
 その他,天文,光学,カメラ,時計,印刷,タイプライターなど,イタリアの誇る技術関係のコーナーもある。
 ボルタのコーナーには最初の電池ともいえる電堆がある。
 なお,ボルタに関連したこととして,ミラノの北方約40kmの湖水地方のコモという美しい町の湖畔にボルタ記念館がある。
 レオナルドの出身地のヴィンチ村にはレオナルド博物館があり,彼の生家も残っている。また,ミラノ市内のサンタ・マリア・デレ・グラッツェ修道院の食堂に彼の最大傑作の一つ「最後の晩餐」の壁画があり,必見である。
世界最初のジェット機
鉄道車両の展示

筆者紹介

菊池文誠(きくちぶんせい)

 1937年,神戸市生まれ。兵庫県立西宮高校,東海大学工学部応用理学科卒業。東海大学理学部物理学科勤務。専門:放射線物理学,物理教育学。
 日本物理教育学会理事,放射線教育フォーラム総務幹事,物理教育研究会運営委員。
 著書:「物理学実験」東海大学出版会(共著),「近代科学の源流を探る」東海大学出版会(編著),その他放射線,物理教育および,海外の科学博物館に関する論文等数十編。



BACK NEXT